シルヴィ・ギエム最後の「ボレロ」 |
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2005-11-21 Mon 23:14
シルヴィ・ギエムの「ボレロ」を観るのは、確か4回目になる。
今までの中で、一番印象に残った。 ジョルジュ・ドンの「ボレロ」と同じく、あらゆるものを超越してしまった気がする。 美しい…確かに美しいことは美しいのだけれど、それは人間でない美しさのような気がする。 女でもなく、男でもなく、美しい女であり、美しい男のようでもあるような気がする。多くのことを語っているようでもあり、透明な、無であるような気もする。 闇の中で、輝く火の鳥を見たら、こんな気持ちになるのだろうか? 最近、美しいものを直に見すぎているような気がする。 マニュエル・ルグリの『オネーギン』、ピアノを弾くマキシム、それにギエムの『ボレロ』。 わずか2週間の間に、こんなに贅沢をしていいものだろうか?共に、震えがくるような感動と、幸せを味わえた。 まだ現実に戻れないまま、家に戻ったら、海外から、カイ・ニールセン挿絵の『アンデルセン童話集』が届いていた。 初めて見る絵もあり、素晴らしさに目を見張った。『雪の女王』や『赤い靴』の挿絵などは、独特の退廃美にあふれ、また彼の世界に魅了された。 本当に…世界にはなんて美しいものが、こんなにもあるのだろう? |
芸術の秋 大忙し! |
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2005-11-19 Sat 20:09
メール、BBS等のお返事がたまっています。
申し訳ありません。 最近は芸術三昧で、大忙し。日記に書くことはたんまりあるのに書く時間も、体力もありません。 10月8日 10日 シュツットガルトバレエ団 『オネーギン』 (2回も見てしまいました!) 10月12日 映画『エリザベスタウン』 (初日 第1回目を観賞) 10月18日 マキシム ピアノ・コンサート 10月19日 プーシキン美術館展 そして今後の予定 10月21日 シルヴィ・ギエム 『最後のボレロ』(バレエ) 10月23日 映画『ヴェニスの商人』 10月26日 映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』 そのほか、友人、家族と週末は食事やお買い物に行ったり、相変わらず忙しいです。 12月はスラヴァのコンサート、ホアキン・コルテスのフラメンコ、フィギュア・スケートのグランプリ・ファイナル(3日間連続)、とても忙しくなりそうです。 |
アーサー・ラッカム「クリスマス・キャロル」2 |
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2005-11-16 Wed 00:04
※12月10日
アーサー・ラッカム「クリスマス・キャロル」ページUPしました。 こちら 続き 7 楽しそうな家族たちを見ながらスクルージは、自分もあの中に入りたいと思いました。 そんなことを思っていると、ドアを叩く音がしました。たちまち子どもたちは戸口に殺到しました。 入って来たのは子供たちのお父さんと、クリスマスのおもちゃやプレゼントをたくさん抱えた配達夫です。 配達夫は、わあっと叫び、もがき、突進してくる子どもたちに取り囲まれ、大騒ぎしました。。 時間がたち、大騒ぎをしていた子どもたちも、寝る時間になり、次々とベッドへと行ってしまい、その場にはこの家の主人と妻と娘の三人になりました。主人は妻と向かい合い、娘をいかにもいとおしげに自分にもたれさせています。 もしかしたら、こんな娘が自分をお父さんと呼んでくれたかもしれないのだとスクルージは思い、目頭が熱くなってきました。 「ねえ」主人はにこやかに妻に話しかけました。 「今日はお前の昔の友だちを見かけたよ」 「あら、誰かしら…?もしかして、スクルージさんね」 「その通り、スクルージさんだよ。あそこの事務所の前を通りかかったら、まだ閉まってなくてね。なんでも相棒の経営者が臨終だとか聞いた。スクルージさんは一人ぼっちで座っていたよ。この世でたった一人ぼっちなんだ」 「やめてくれ!」スクルージは叫びました。 「私をよそへ連れて行ってください!」 「これは過去にあったことの幻だと言ったはずですよ。あれが事実だからといって、私を責めるのは間違いですよ」 「よそへ連れていってください!とてもがまんできない!」 そう言いながら精霊の顔を見ると、その顔は今までに見てきたさまざまな顔を、奇妙な具合につなぎ合わせたようなのです。思い出の顔、顔。それを見て、スクルージは逃れようと、もがきました。 そしていつの間にか、自分の寝室にいることに気付きました。そして深く眠ったのです。 8 スクルージが目を覚ますと、しばらくして午前1時の鐘が鳴りました。第二のクリスマスの精霊がやってくる時間です。 ところがスクルージがベッドで待っていても、精霊が訪れる気配はりません。けれどその待っている間中、スクルージは明るい光に包まれていました。その光はどこから来るのだろうとたどっていくと、隣の居間からでした。 開けるとどうでしょう。そこはヒイラギやヤドリギなど緑の葉がいっぱいに生い茂り、森のようになっていたのです。床には七面鳥やプラムプディングなど、クリスマスの料理が山のように積まれて玉座を作り、その前の安楽椅子にふんぞりかえっているのは、見るからに愉快で堂々たる巨人でした。 「私は現在のクリスマスの精霊だよ。さあ、わしの着物につかまるんだ」 スクルージが精霊の着物につかまると、すべてのものが消え、クリスマスの町の大通りに立っていました。 精霊がスクルージをまず案内してくれたのは、スクルージが雇っている事務員ボブ・クラチットの家でした。精霊は、家族が大勢いるのにたった4部屋しかない、貧しいボブの家を祝福しました。 ボブの奥さんはクリスマス料理を作っています。そこへ教会へ行っていたボブが、息子のティム坊やを肩車して帰ってきました。坊やはかわいそうに、松葉杖をつき、両足に鉄の支えをしないと歩けないのです。 貧しいけれど、とても楽しいクリスマスの食事の始まりました。 「みんな、クリスマスおめでとう。神様の祝福がありますように!」 ボブが言うと、家族みんなの声がそれに唱和しました。 「みんなに、家族の祝福がありますように!」と、やや遅れてティム坊やの声もしました。 ティム坊やは父親の隣の小さな肘掛け椅子に座り、ボブはその小さな手を、誰にも奪われないようにするかのように、ぎゅっと握りしめていました。 スクルージは、これまでにないほどこの子が気になって仕方がありませんでした。 「教えてください。精霊様。ティム坊やは死んだりしませんよね?」 「貧しい家の炉辺に、ぽつんと開いた席が見える。使い手のない松葉杖が大事にとってあるのが見える。もしこの幻が、未来の手によって変えられr内のなら、あの子は死ぬだろう」 「まさか、そんなひどいことを。どうか助かると言ってください」 「この幻影を変えられるのは未来の精霊だけだ。わしの一族ではどうにもできん。でも、いいじゃないか。死ぬ運命なら、さっさと死んで、無駄メシ食いの数が減っていいじゃないか」 スクルージは首をうなだれました。それは自分の言った言葉だったのです。 9 現在のクリスマスの精霊は、今度はスクルージを、彼の甥のフレッドの家へと案内しました。そこには、甥の若い美しい妻、そして友人たちが集まっていました。 甥は楽しそうに笑っていました。 「おじさんはね、それで、クリスマスなんかくだらないと言ったんだ。しかも本気でね!」 「それじゃ、ますます悪いじゃないの」 甥の妻、スクルージの義理の姪は怒ったように言いました。 「おじさんは本当はおもしろい人なんだよ。愉快になろうと思えばなれるのに、そうならないんだ。でもいつも仏頂面をしているせいで、その報いは受けてるんだから悪口を言う気にはならないね。おじさんは僕たちを嫌いで、いっしょに楽しくやらないことに決めた。でもその結果、とても楽しい一時を、けっしてめぐり合えない愉快な仲間と会い損なったんだ。ぼくはおじさんが喜ぼうと、喜ぶまいと、毎年うちへ招待し続けるつもりだよ。だって、かわいそうだもの。それでも、おじさんは死ぬまで、クリスマスを悪くいい続けれるかもしれないけれど、毎年たずねていくつもりだよ」 そして楽しいゲームが始まりました。実は、こっそりとスクルージもそのゲームに加わったのです。やってみれば、スクルージは誰よりもうまくゲームができました。 楽しく過ごした後、外に出たスクルージは、精霊の衣から、おかしなものがのぞいているのを見ました。それは小さな足のようでした。スクスージが精霊に尋ねると、精霊は衣を広げました。 「さあ、見るがいい」 精霊は、ひだの間から、二人の子どもを引き出しました。それは、みすぼらしくけがらわしい、みじめで哀れな男の子と女の子でした。黄色く、やせこけ、ぼろを身にまとい、オオカミのようにガツガツしているのに、腰を低くし、ひれ伏しているのです。 「男の子の名は“無知”、女の子の名は“貧困”だよ」 「この子たちを救ってやる場所はないのですか?」 「監獄はないのかね?貧民収容所はないのかね?」 それはスクルージが言った言葉でした。 その時、鐘が12時を打ちました。 スクルージがあたりを見回すと、精霊の姿はありませんでした。12時を打つ鐘の最後の音が鳴り終わった時、スクルージは、ジェイコブ・マーレイの幽霊が言ったことを思い出し、顔を上げました。すると、長い衣をまとい、頭巾をすっぽりかぶった、重々しい影が、地をはう霧のようにこちらにやってくるのが目に入りました。 10 その影はゆっくりと、重々しく、音もなく近付いてきました。スクルージは思わず膝をつきました。この精霊が歩み寄るさまに、ただならぬ妖気を感じたからです。 「あなたは未来のクリスマスの精霊なのですか?」 相手は答えず、ただ手で前方を指しました。 「あなたはこれまで起こったことではなく、こらから起こることの幻を見せてくださるのですね。そうなのでしょう?」 頭をこっくりとでもしたか、黒衣の上の方のひだが一瞬縮みましたが、それ以上の答えはありませんでした。 「未来の精霊様、前の方たちよりもずっとあなたの方が恐ろしく感じます。でも、私のためを思っておいでになったのでしょう?どうかご案内ください」 答えはなく、精霊は前方を指すと、来た時と同じようにゆっくりと歩き始めました。スクルージはそれについていきました。 いつの間にか、ロンドンの町中に二人は立っていました。 まわりは商人でいっぱいで、みんなせわしげに行き来したり、ポケットの中のお金をじゃらつかせたり、群がっておしゃべりしたりしています。これはスクルージにとっておなじみの光景でした。 商人たちが何人か寄り集まっているそばで、精霊は立ち止まり、そちらの方を指したので、スクルージは近寄り、その話しに耳を傾けました。 「私もよく知らんのだよ。だが、とにかく知っているのは、あいつが昨夜死んだってことさ」 「やれやれ殺したって死なないやつだと思っていたがな」 「やつの金はどうなるんだろう?」 「知らんね。自分の会社にでも遺したんだろう。私に遺してくれたんじゃないことは確かだがな」 この冗談に一同はどっと笑いました。 「やれやれずいぶんしけた葬式になりそうだな」 スクルージは話しをしていた人々をみんな知っていました。どういうことなんだろうと精霊を見た時、今度は知り合いの金持ちの実業家で、町の有力者の二人を見かけました。スクルージは、商売上、この二人によく思われようと点数稼ぎにつとめていました。 「やあ、景気はどうだい? ところであの悪魔がくたばったそうだな」 「という話だな。それにしても今日は寒いな」 「クリスマスだからこんなもんさ」 スクルージは、どうして精霊がこんなつまらない話に重点を置くのか分かりませんでした。死んだマーレイのことなのかか?でも、あれは過去のことでした。 そして思いました。未来の自分はどこにいるのだろうかと。けれど、その姿は見つけることはできませんでした。 11 未来の精霊は今度はロンドンの場末の、一目見ただけで柄の悪い場所へとスクルージを連れていきました。貧しさと犯罪の巣窟のようなこの場所の奥深い場所に、一軒の店があり、様々なくずを売っていました。 この店に重たそうな荷物を持った女が入っていきました。そのすぐ後に、また同じような荷物を持った別の女が入っていき、その後から色のさめた黒服の男が入っていきました。どうやら三人は知り合いのようで、それぞれ店主のじいさんに売るくずを持ってきたようです。こんな場所ですから、持ってきた物も出所があやしいようです。 「どうってことないさ。死んだ後もとっておきたいなら、生きているうちに人並みの暮らしをすりゃ良かったのさ。そうすりゃ、誰かにみとってもらえたものをさ」 「ああ、死んだやつは気にしないさ」 そう会話しながら、まず黒服の男がカフスボタンや筆箱、印鑑などを出しました。じいさんは一つ一つ吟味し、値をつけます。今度は二番目に着た女が、衣類や靴を出し、同じように値段をつけらました。 そして今度は最初に来た女が、包みを広げました。 「おい、これはベッドのカーテンじゃないか。お前は死人のベッドからこれを持ってきたんじゃないだろうな」 「そのまさかさ。そうして何が悪い?」 「お前さん、大金持ちになれる天才だよ!それから、これはあいつの毛布かい?」 「他の誰のだって言うんだい?もうあいつは毛布なんかなくたって風邪はひかないからね」 「精霊様、分かりました。分かりましたよ」 見ていたスクルージは、全身わなわなと震えながら言いました。 「私もこの哀れな男と同じ運命をたどるところだと仰りたいのでしょう?うわっ、これはなんです?」 スクルージのすぐ目の前にベッドが現れたのです。カーテンもないベッドで、ぼろのシーツにくるまれたものが横たわっていました。身ぐるみはがされ、一人ぼっち。見守るものもなく、泣くものもなく、その男の死体は横たわっていました。 スクルージはこの哀れな男を見て、この男は今生き返ったら何を考えるのだろうと思いました。金儲けのことか、取引のことか?その挙句、たいした末路を迎えたものだ。 精霊とスクルージは街中を歩き始め、スクルージの事務所の前も通りかかりました。スクルージは自分の姿が見えるかと覗き込みましたが、そこには別な人間がいました。そして精霊はなおも歩き続け、行き着いたところは、なんと墓地でした。 精霊いくつもの墓をぬって進み、一つの墓の前で立ち止まりました。 「精霊様、あなたが示されている墓を見る前に、一つだけ教えてください。今見ている幻は、将来必ず起こることですか?それとも起こるかもしれないことですか?」 精霊は依然何も言わず、身動きさえしませんでした。スクルージは震えながら、その指の示すものを見ました。 誰にも世話されず、ほったらかしの墓石に刻まれている文字はこうでした。 エビニーザ・スクルージ 「あのベッドに横たわっていたのは、この私だったのか!」 スクルージはへなへなと崩れ落ちた後、精霊にすがりつきました。 「お願いです!精霊様!私は生まれ変わります。私に何の望みもないのなら、どうしてこんなものを見せてくれたのですか?」 精霊はスクルージの手を払いのけました。 スクルージは最後の祈りを捧げるつもりで両手を組んで差し上げると、精霊はだんだんと縮まっていき、崩れ、気がつくとベッドの柱になっていました。 12 そう、それはスクルージのベッドの柱でした。しかも自分のベッド、自分の部屋でした。そして何より嬉しいのは、これから先の時間は自分のものであり、自分の手でやり直しがきくということでした。 ベッドのカーテンはありました。先ほど見せられた未来の幻は、消すことができるかもしれないのです。 「ありがとう、ジェイコブ・マーレイ!これからは、過去、現在、未来の精霊と共に生きていくよ。この精霊たちは、私の心の中に住み、励ましてくれるだろう」 スクルージは生きているのが嬉しくてたまりませんでした。それにしても、どのくらいの時間が経ったのだろう?教会の鐘が鳴り始めました。スクルージは窓を開けました。外は明るい快晴でした。スクルージの心と同じように。 「今日は何日だね?」 通りがかりの少年に尋ねると、少年は不思議そうな顔をしました。 「今日が何日だって?決まってるじゃないか。クリスマスだよ」 驚いたことに、一晩しか経っていなかったのです。嬉しくなったスクルージは少年に続けて言いました。 「坊や、頼まれごとをしてくれないか?ここから二本目の通りに肉屋があるから、店で一番大きな七面鳥を買ってきてほしいんだ。お駄賃ははずむよ」 その七面鳥は、事務員のボブ・クラチットの家に届けさせるつもりでした。ティム坊やの2倍はありそうな、大きな七面鳥でした。 スクルージは外に出ました。歩いている途中、昨夜、貧民のための寄付を求めに来た紳士と出会い、法外な寄付を申し出ました。紳士の驚きながらも、スクルージに深く感謝しました。 そしてスクルージは甥の家の前に来ました。何度もためらいましたが、思い切って入ると「やあ、フレッド!」と声をかけました。 甥夫婦の驚いたこと。 「ひゃあ、誰なんです?」 「私だよ。伯父のスクルージだ。ご馳走になりに来たんだ。入れてくれるかい?」 入れてくれるかい?だなんて、その後はスクルージの腕がもげてしまいそうなくらいの握手ぜめでした。5分もするとわが家同様にくつろいでいました。 そして甥の友人たちも来て、現在のクリスマスの精霊が見せてくれた通り、素敵なパーティ、素敵なゲームが始まりました。違ったのは、そこにスクルージがいたということでした。 |
アーサー・ラッカム「クリスマス・キャロル」 |
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2005-11-15 Tue 21:23
トップページで特集をしている、チャールズ・ディケンズ原作、アーサー・ラッカム挿絵の『クリスマス・キャロル』。
お話のみ、こちらに置いておきます。 ※12月10日 アーサー・ラッカム「クリスマス・キャロル」ページUPしました。 こちら 1 19世紀半ばのロンドンに、“スクルージ・アンド・マーレイ商会”という会社がありました。経営者はその名の通り、スクルージとマーレイという二人の男でしたが、マーレーは7年前に死に、今はスクルージ一人が経営していました。スクルージは、ごうつくばりの心の冷たい老人で、人からしぼりとるだけしぼりとり、といって貯めこんだ金で何をするでもなく、一人で質素な生活を送っていました。 クリスマス・イブ、ロンドンのどこもかしこも、クリスマスを祝う陽気な声で溢れていました。スクルージ・アンド・マーレイ商会をのぞいて。 スクールージは、クリスマスの食事に誘いに来てくれた甥は冷たく追い返し、会社で働く事務員がクリスマス休暇を願い出ると給料を減らすぞと嫌味をもらし、寄付を頼みに来た人には「死んだ方がましという貧乏人は、死んだ方がいいだろう」とひどいことを言って追いはらいました。 2 閉店後、スクルージは行きつけの陰気な店で、陰気な夕食を取り、備え付けの新聞を読むと、余った時間は預金通帳を眺めてつぶし、家に帰って寝ることにしました。それがごうつくばりのスクルージのクリスマス・イヴの過ごし方でした。 袋小路にある陰気な家に戻ったスクルージは、玄関のドアを見てギクリとしました。、ドアのノッカーが、7年前に死んだ、会社の共同経営者だったマーレイの顔になっていたのです。スクルージがじっと見つめると、しばらくしてそれは元のノッカーに戻りました。 気味悪く思ったものの、鍵を開けて中に入ると、真っ暗な階段を霊柩車が過ぎ去ったような気がしました。 階段は燭台の光だけではとても暗く不気味でしたが、ケチなスクルージは暗闇は安上がりと気にしませんでした。けれど、やはり先ほどのドアの顔が気になって、一通り、家を確認しました。居間、寝室、物置、異常なし。テーブルの下にも、ベッドの下にも誰も隠れていませんでした。 3 スクルージは、なんとなく落ち着かない気持ちで部屋を歩き回った後、椅子に座りました。そしてたまたま今は使われていないベルに目が行きました。すると突然そのベルが大きな音で鳴り始め、そしてそれに伝染したように家中のベルが鳴り始めました。 それは1分か30秒ほどでしたが、スクルージには1時間のように思われました。 そして鳴り出した時と同じように、全部のベルが一斉に鳴りやみました。 それからずっと下の方から、じゃらじゃらという音が響いてきました。まるで誰かが重たい鎖を引きずって歩いているように。その音は次第に上へと上がっていき、スクルージの部屋の戸口まできました。 「これもまやかしだ。わしは認めんぞ」 スクルージがそういった時、“それ”はなんのためらいもなくドアを通り抜け、部屋に入り、目の前に立ちました。 それは見覚えのある顔でした。7年前に死んだ、会社の共同経営者マーレイだったのです。 マーレイは生前と同じ姿をしていましたが、腰に重たい鎖を巻きつけていました。そしてその鎖は、鋼鉄を金庫や鍵、南京錠、帳簿、証書、重たい財布の語りにしてつくりあげたものでした。 「おい!わしに何の用だ」スクルージは勇気を振るい言いました。 「用ならどっさりある!」 答えた幽霊の声は、まさしくあのマーレイのものでした。 「あんたはどうして、そんな鎖につながれているんだ」 「これは生きていた頃に徐々に身に着けたものだ。この形、お前も見覚えがあるだろう?わしは自らの意志でこの鎖を身につけていったんだ。そう、7年前のクリスマスは、お前の鎖もわしと同じくらいだった。けれどお前はそれからもずっと、せっせと鎖を編んできたから、今じゃものすごい重さになっているぞ」 4 スクルージの前に現れたジェイコブ・マーレイの幽霊は、体にまきつけた重い鎖をじゃらじゃらさせながら、更に言いました。 「わしに残されている時間はわずかしかない。わしが今夜ここへ来たのは、お前にはまだわしのようにならずにすむチャンスと望みがあるということを告げるためだ」 「ありがとう。あんたはいつもわしによくしてくれたもんだ」 「お前のところに、これから三つの精霊がやってくるはずだ。それがお前のチャンスと望みだよ。第一の精霊は明日の午前一時の鐘がなった時、やってくる。第二の精霊は翌日の同じ時刻に。第三の精霊は翌日の真夜中の十二時、最後の鐘がなり終わった時に現れる。わしがおまえに合うことはもうない。だから今わしたちが話したことを忘れるんじゃないぞ。お前のためだからな」 そして幽霊は少しずつ後ずさりをしてスクルージから離れていきました。一歩さがるごとに、窓は少しずつ開いていき、幽霊がそこに行き着いた時は、大きく開けはなれていました。 幽霊はこっちへ来いとスクルージを手招きしました。 窓に近付いたクルージは 外が騒がしいのに気付きました。ごうごうという風のうなり声、それは嘆く声、悔やむ声が入り乱れての不協和音でした。言いようのないほど悲しげな、おのれを責めて泣き叫ぶ、さまざまな声でした。 マーレイの幽霊はちょっと耳を澄ましてから、一緒になって泣き声をあげ、真っ暗な寒々とした夜の中に飛んで息ました。 スクルージはその後を追い、窓の外を見ました。 空には、あちこちせわしなく飛びまわりながら泣き声をあげている幽霊がいっぱいいました。どれもこれもマーレイと同じように鎖で縛られていて、中には一緒につながれているのもおりました(これは汚職役人でしょうか)。その中にはスクルージの知り合いもたくさんいました。 やがて幽霊たちが消えて霧になったのか、それとも霧が幽霊を包んでしまったのか、姿も声も消え、スクルージが家に帰ってきたと同じ、霧の夜になりました。 スクルージは窓を閉め、幽霊が入ってきたドアを確認しました。鍵はかかったままでした。スクルージは次第に眠くなり、着替えもせずに寝てしまいました。 5 スクルージが目を覚ました時、あたりは真っ暗でした。時計が時間を打ちます。12回。スクルージが寝のは午前2時、けれどあたりは昼の12時は見えません。やはり夜の12時なのです。 またたく間に時間が過ぎ、マーレイの亡霊が、第一の精霊がくると言った午前1時となりました。 突然、スクルージのベッドのカーテンが引き上げられ、約束の人物が現れました。 それは一見して、子どものような背格好をしていました。けれど見方によっては老人のようにも見えました。髪は老人のように真っ白で、けれど顔にはしわ一つなく、みずみずしいバラ色をしていました。 「わたしは過去のクリスマスの精霊です。さあ、立って、私と一緒に来るのです」 そう言ってスクルージの手を引く力はとても強く、子どもでも老人でもありませんでした。そして驚いたことに精霊は、スクルージを連れ、高い所にあるはずの壁を通り抜け、過去の世界へと連れて行ったのです。 懐かしい過去の風景。スクルージは、学校にいる少年時代の自分を見ました。それはクリスマスで、ほかの子どもたちはみんな家族が迎えに来てくれたのに、たった一人残され、本を読んでいる孤独な少年でした。 その時、ドアが開きました。 「お兄ちゃん!お兄ちゃん!迎えに来たのよ!」 それは幼い妹の姿でした。兄妹は嬉しそうに馬車に乗っていき、家へと帰っていきます。優しくて、かよわかった妹…。 「妹さんは結婚してから亡くなったのでしたね。たしかお子さんがあったはずですが」 精霊が言いました。 「ええ、一人、男の子がいます」 そうスクルージは言いながら、クリスマスのお祝いと食事を誘いに来てくれた甥を追い返したことを思い出しました。 今度は、青年に成長したスクルージが年季奉公した店へと行きました。その店の主、フェジウィッグじいさんは、クリスマスだからと、早々に店じまいをすると、スクルージたち奉公人や近所の人たちを集めて、ささやかなパーティを開きました。 陽気にみんな踊り歌い、かつらをつけたフェジシッグじいさんは、奥さんとぴょんぴょんと楽しく踊りました。見ている現在のスクルージも楽しくなりました。 「あんな他愛無いことで、おろかな人間をありがたがらせているのですよ」 クリスマスの精霊は言いました。 「他愛無いですって!」 「その通りでしょう?フェジウィッグは3、4ポンドのはした金を使ったにすぎない。それなのに、みんなからほめられているのですよ」 「金じゃありませんよ」 そうむきになってフェジウィッグをかばったスクルージの声は、現在のスクルージではなく、楽しそうに踊っていた昔のスクルージの声になっていました。そしてクリスマス休暇を願い出た従業員のボブ・クラチットに、給料を減らすといったことを思い出しました。 6 「私の時間は残り少なくなった。急げ!」 過去のクリスマスの精霊は言いました。そして再びスクルージは過去の自分のを見ました。それはさらに年を重ね、働き盛りの男になっていました。その顔は年をとってからのきつい、けわしい顔ではありませんでしたが、用心深さと貪欲さが現れ始めていました。 そのスクルージは一人ではありませんでした。傍らには、喪服を着た美しい娘がいて、その目には涙があふれていました。 「たいしたことじゃないのよ。あなたにとっては。私以上に夢中になるものができた。それだけなの」 「君以上に夢中になるものってなんだい?」 「金色に光るものよ」 「君も世間の奴らと同じだね!貧乏人にはつらくあたるくせに、金儲けをしようとしたら、これまたひどく責めるんだから」 「私たちが婚約したのはずっと昔だわ。今よりずっと貧しくて、でも、まじめに働いていれば、いつかきっと運が向いてくると信じて、それなりに満足していた頃のことよ。あなたは変わったわ。私は考えた末に、あなたを自由にしてあげることにしたの。あなたは後悔するかもしれない。でも忘れるわ。あなたが好きだったから、どうかあなたが選んだ人生が幸せでありますように」 そうして娘は去っていき、二人は別れました。 「精霊様!やめてください。お願いです。私を家に連れて帰ってください。私を苦しめるのがそんなに楽しいのですか?」 「あと一つ、見せるものがあります」 「いいえ、もうけっこうです。見たくありません」 けれど精霊は容赦なくスクルージの両腕を締め上げ、次の情景を見せました。 それは大きくも豊かでもないが、いかにも居心地のよさそうな部屋でした。冬の日の暖炉のそばに、かわいらしい少女がいました。さきほどの娘とそっくりなので、スクルージは最初同じ女の子なのだと思いましたが、この子の向かいに座っている美しいお母さんに気付きました。こちらが実はさっきの娘だったのです。 室内はびっくりするほど、にぎやかでした。たくさんの子ども達が大騒ぎをしていました。そして、母と娘はそれを楽しげに眺めていました。 |
火垂るの墓 |
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2005-11-03 Thu 23:57
11月1日に放送されたドラマ『火垂るの墓』の世界に、どぼんと落ち込み、そのまま、その世界にぷかぷかと浮き続けています。
観終わってから、ずっと心を離れない。 いろんなことを考え続けています イソップの『北風と太陽』のよう。 心が温かさと悲しみの涙で溶けていきました。 強い言葉で「戦争反対」を糾弾されるよりも、心から戦争はいけないんだ、食べ物を大切にしなくてはいけないのだと、二つの小さな死を通して思いました。 人としての尊厳や優しさを失っていくのは、なんて悲しいんだろう。 アニメ『火垂るの墓』も感激し、泣いたけれど、その時以上に、今回は惹きつけられた。 アニメがなければ、今回のドラマも観なかったと思うけれど。 アニメを見たからこそ、兄妹に冷たくしたおばさんに焦点をあてて、そしてその役を松嶋菜々子さんというのは、新鮮だったし、やはり大きい。どんな風に描くのだろう?どんな風に演じるのだろう?と、楽しみにしていました。 松嶋さんは、熱演ぶりが目立つ女優さんではないけれど、兄妹の訴えるような視線に動じることなく、表情を変えず、突き放す言葉と態度を続けたのが、悲しくも良かった。 原作にはない、加害者(おばさん)と傍観者(その娘)の視線を入れたことによって、改めて、改めて自分が悲しい出来事の“傍観者”であることに気付きました。 傍観(ぼうかん)──、辞書を引くと「手を出さずに、ただそばで見ていること。その物事に関係のない立場で見ていること」とあります。 “傍観者”って、偽善であり、弱虫なんだなあ。 安全な場所で、ひどいことが行われていれば誰かがなんとかしてくれるだろうと考え、ひどいことを行なわなくてはいけない時も、自分以外の誰かがやればいいと辺りを見回す。 同じ偽善なら、寄付でもなんでも、何らかの救いの手をほんの少しでも差し出すことができ、その少しずつで、本当に誰かを救うことができるかもしれないのにと、何もしないことへの嫌悪感があふれ出す。でもできても「ほんの少し」だけで、それ以上踏み込めない。安全を守ってばかりだ。 アニメ版の『火垂るの墓』は、主人公の清太を、高畑勲監督は、弱い現代の子として描いたそうです。 同じ立場でも生き抜いた子どももいるし、野草など自然があふれる夏(暖を取れない冬ではない)、目の前に魚がたくさんいるだろう湖があっても、知識も方法も分からなかったんだろうね。清太君は。 おばさんの家にいても、気を利かして手伝いをするとか、向こうの子どもの面倒もみるとかしたり、家出をした後も、自分に有利な立場で戻る手段をとるとか(誰か人前でおばさんに約束させたり)、心が優しくても処世術がまるっきりないところが悲しい。 でも、親戚の男の子たちを見ても、12〜16歳くらいの男の子は、呼ばれるまで部屋にいたり、挨拶ができなかったりと、それ以下だけど。照れや反抗期というものもあるのだろうけれど。 それでも、子どもだ。悲しいくらい無力で、世間知らずの。なんだかんだ言って大人を信じている。 死ぬことが十分分かっていて、突き放したのはひどすぎる。 さらに5歳の子どもは、もっと弱い。 なんとかできたはずというのは、常に子どもよりも大人の方に言える。 でも、飢えるということを本当に経験したことがないからこそ、死と向きあわせでいる恐怖と絶望を経験したことがないからこそ、思える余裕があるからこそなんだろうな。 アニメでも、蛍と共に、悲しみと美しさの象徴だったドロップ缶、これをおばさんが節子ちゃんにあげたものだったというのがよかった。 アニメでは節子ちゃんの遺骨が入っていたけれど、ドラマで入っていたのはおばさんの優しい心の遺骨だったのかもしれない。95歳まで生きたおばさん。ドロップ缶を持ち続けたということは、その死を忘れなかったということだろうけれど。 戦後を必死で生きていくというのは、子どもも成長するし、おそらく長くても10年だったろう。必死で生きるじかんを過ぎ、残りの50年を、あのおばさんなら後悔はなかったかもしれないけれど…、死んでも優しい夫と同じ場所にはいけない…、決して天国に行くことはないことを自覚し、受け止めて。戦後に自殺した人もいることを考えると、強さも感じるけれど。 「死んだら負け」、その言霊は彼女に何を与えたのだろう。家族の命。二つの死。でも、心も…「死んだら負け」だったのに。 こんなに、いろいろ考える作品は、『永遠の仔』や『戦場のピアニスト』以来だ。ずっと考えるんだろう。『永遠の仔』も『戦場のピアニスト』も、ずっと考え続けている。 感想はまとまらないけれど、まだまだたくさんあるけれど、感動を忘れないうちに、つらつらと書き留める。 ドラマを観終わった後は涙があふれて(初めから泣いていたような気もするけれど)、次の日に響かないように、顔を何度も洗った。それでも目は腫れてしまったけれど。 |
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| アレクサンドラ・イザベルの日記 |
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