アレクサンドラ・イザベルの日記

アンティーク、バラ、陶器の人形、綺麗な絵本、ヨーロッパ映画、バレエなど、好きなものを綴っています。

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イン・トロイ 三つの小さな願いごと

 ヘッセ全集が刊行されたこともあり、久々にヘッセの短編集『メルヒェン』を読みました。
 やはりヘッセ作品は美しい。
 ふと『メルヒェン』の中の一編「アウグスツス」のイメージを借りてメルヒェン創作。

※   ※   ※   ※


 遠い昔、高い城壁に囲まれた王国があった。
 その高い城壁は、海神ポセイドンとアポロンが建てたといわれ、どんな敵の侵入も拒み、国をずっと守ってきた。
 国の人々はポセイドンとアポロンに感謝し、立派な神殿を建てた。

 アポロンの神殿には、毎夜、祈りに来る女がいた。
 高貴な衣装に身を包んだその女は若い母親で、連れてきたわずかな供も入り口に残し、ただ1人で胸に赤ん坊を抱き、その子のために、毎夜祈っていた。

 この子が生まれる時、女は不吉な夢を毎夜見た。
 自分が燃える木を生み、それが燃え広がって国が焼け落ちるという夢だった。
 そのたびに泣きながら目覚め、不安のあまり賢者にこの夢のことを告げると、彼は「この子は災厄の種になる」と言い、捨てることを勧めた。
 しかし、さすがにわが子を捨てることなど考えられず、いっそのこと子どもが生まれなければよいとさえ思った。

 けれど生まれた子を見た時、女は泣き出した。とても美しい男の子だった。
 恐ろしさは消え、ひたすら愛情だけがこみ上げてきた。かわいくて仕方がなかった。この子の父も、先に生まれたこの子の兄も、たちまち赤ん坊に夢中になり、赤ん坊は毎日たくさんの喜びをこの家庭に与えた。

 なぜ、夢くらいでこの子が生まれてくることを、あんなにも恐れたのだろう?こんなにかわいいのにと、赤ん坊に頬擦りした。赤ん坊はその頬擦りに、嬉しそうに笑った。
 けれどしばらくして、また恐ろしくなった。もしもこの子に夢で見た不幸が訪れたらどうしようという恐れだった。子どもをしっかりと抱きしめながら、不安で仕方がなかった。

 そして女は毎夜毎夜祈りに来る。わが子の幸せだけを願って。

 そんなある夜、長く祈りすぎ、夜が明けようとしていた。空が白み、太陽が昇ろうとするわずかな時だった。夢か幻か、神の声がした。
「信心深い王妃よ。この子のために、たった一つのそなたの願いを叶えてあげよう。ただ一つだけだ。この子のために、願ってごらん」

 その場所には、王妃と赤ん坊しかいなかった。何を願えば一番良いのだろう?偉大な神がお待ちだ。早く答えねばならない。

 誰にも負けないよう、世界を征服するような権力…。それを考えた時、この子の兄である第一王子を思い出した。小さな弟が指を握ったまま離さないよと困ったように、でも嬉しそうに笑って、ずっと弟の傍にいた優しい兄。もし大切な2人が争うようになったら…。それはあまりに悲しいことだった。
 それならば、知恵はどうだろう。知恵さえあれば、どんな困難からも抜け出せるだろう。ところが、この子が生まれる時に、夢を相談した賢者を思い出した。この国で一番の賢者だった。いかに正しいとしても母親に子どもを捨てろという知恵があるだろうか。
 ああ、なぜ人は争ったり、傷つけあったりするのだろう?母親が子どもを愛するように、なぜ愛し合えないのだろうか。そうすれば戦いなどなくなるのに…。

「偉大な太陽神よ、私は願います。この子が誰からも愛されますように。私がこの子を愛するように誰からも愛されますように」

 太陽が昇り、王妃ヘカベは神殿から出てきた。
 朝の太陽の光が、子どもを優しく包む。
 ヘカベは赤ん坊の額にキスをした。
「ああ、可愛い私のパリス、お母様はあなたに一番いいことを願ってあげたかしら?」


 美しいトロイの王子パリスに、スパルタ王妃ヘレンは恋をする。
 ヘレンをトロイに連れ帰った時、国民は美しい王子が、美しい妃を連れてきたことを喜び、戦いが起こった時も王子を恨むことはなかった。王子は国の希望だった。

 今は亡き王妃ヘカベが毎夜祈った神殿に、おびただしい血が流された。その神殿の前に、剣から血をしたたらせ、金の髪をした美しい戦士が立ち、アポロンの像の首を切り落とす。
「俺は神など信じない!」

 権力者、ミュケナイのアガメムノン王がトロイを攻撃し、知恵者であるオデッセウスの考案した巨大な木馬作戦が、トロイを陥落させた。

 炎に包まれたポセイドンの神殿に、トロイの王プリアモスは、深手をおい倒れていた。
 ポセイドン神に捧げられたものとして愚かにも入れた木馬、すべてが終わりだった。
 「燃やしましょう」とただ1人言った王子パリスの言葉がよみがえる。けれどすべてが終わりだった。すべては神のご意志、けれどあまりに残酷すぎた。

 そんな炎の中、神の声がした。
「信心深い王よ。そなたの唯一つの願いを叶えてあげよう。願ってごらん」

 なぜ今…。
 プリアモス王の目から一筋の涙がこぼれた。
 最後まで私は愚かだ。

「偉大なる海神よ…。私の願いは…」

 炎で柱がまた1本倒れた。

「息子を…。どうか私の息子を助けてください…」


 目を閉じた王の上に、暖かな雨が降り注ぐ。
 かわいそうなトロイのために、神が雨を降らせているのか。
 弱々しく目を開けた。

「父上…」

 そこに何よりも愛しい顔があった。
 父の傷口を必死でしばり、抱き上げようとしていた。かわいそうな父のために、彼は泣いていた。
 ああ、この子が生まれた時も、たくさんの涙をこぼし泣いていた。
 その目を開いた瞬間から愛した息子、この目が閉ざされるのを見ずにすんだ…。


※   ※   ※   ※


 『イン・トロイ 三つの小さな願いごと』(どこかで聞いたタイトル(笑))
 もう一つの願いを書いてないわ。
 一応映画『トロイ』の二次小説です。
 続きはあるけれど、また後で…。
 
 『キングダム・オブ・ヘブン』(KOH)のカットされたシーンで、バリアン(オーランド・ブルーム)が号泣するシーンがあったそう。
 そういえば、オーランドが泣くシーンて、見たことがない。エルフは不老不死なので、『ロード・オブ・ザ・リング』のボロミアが死ぬシーンで、レゴラスは不思議そうな顔をしていました。
 『トロイ』のヘクトルが死ぬシーンでも、パリスは泣かなかったわね。KOH、また見たくなってきました。

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